準委任(SES)とは何かや派遣と請負の違いについてなどの説明は見かけるのですが、IT業界の契約形態を網羅したサイトがないようなのでまとめてみました。
SES営業や、総務、法務、人事、フリーランスで働いている人、もちろんエンジニアの方も是非理解しておいてください。
委託・請負・準委任の違い
まずはこの三つの契約形態の違いについて説明していきます。
委託
委託は法律に定められた契約形態ではありません。
辞書では次のように説明されています。
1 ゆだね任せること。人に頼んで代わりにやってもらうこと。「販売を業者に―する」
2 契約などの法律行為やその他の事務処理を他人に依頼すること。
3 客から取引所の取引員に注文を出すこと。
フリーランスの方などは特に、「業務委託契約」という言葉をよく聞くと思いますが、内容は請負や準委任の法律に従って決められています。
請負契約とは
民法で次の通り定められています。
民法 第632条
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
請負のルール
- 指示を受けずに作業を完遂しなければならない
- 仕事完成義務を負う
- 瑕疵担保責任を負う
- 再委託することができる
- 成果物の納品によって対価を得る
罰則
請負契約において、顧客からの指示を受けて作業をした場合は、偽装請負として罰せられる事になります。
発注側、受注側、その両方に適用される可能性のある法律と罰則は次の通りです。
受注した企業が受ける可能性のある罰則
無許可派遣事業として「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」
解説
指示を受けて作業をした事実があれば請負ではなく派遣と判断されます。
受注側の企業が派遣の許認可を受けていなければ無許可で派遣を行った事になり処罰の対象となります。
発注企業が受ける可能性のある罰則
解説
偽装請負が判明した時点(正確には指示があった時点)で、発注側の企業が労働者に対して、労働契約を申し込んだとみなされてしまう恐ろしいルールです。
(働いている側からしたら顧客の社員になれるんでラッキー?かも。)
もしあなたが発注側の立場なら絶対に気を付けた方がいいでしょう。中にはこの制度を逆利用して、ちょっとした事で労基に偽装請負だと言いに行く人もいますので。
※今書きながら思いついたんですが、外注社員を引き抜きたい時に悪用できるかもしれませんね。IT業界では引き抜きはタブーですのであくまで可能性のお話ですけれども。
共通して受ける可能性のある罰則
違法な労働者供給事業として「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」
解説
何人も労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働に従事させてはならない(法第44条)と定められています。
※派遣の許認可があれば問題ありませんし、正しい請負であれば指揮命令関係はありませんので、この法律には抵触しません。
瑕疵担保責任とは
仕事の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は瑕疵修補請求権およびまたは損害賠償請求、さらに、瑕疵の程度により契約の解除をすることができます(民法634条、635条)。
と民法で定められています。
瑕疵(かし)とはIT業界ではバグとほぼ同じ意味で使われています。つまりバグがあった場合、お客さんには
・修補(=直す)しろ!
・生じた損害を賠償しろ!
・契約を解除する!
といった権利があるという事です。(引き渡しから1年以内まで)
受注側から見ると
・修補する(直す)責任
・損害を賠償する責任
・契約を解除されお金がもらえない可能性がある
となり、これらを合わせて瑕疵担保責任と言います
修補請求とは
納品後のシステムにバグがあった場合、バグが重要でなかったり修正にかなりの費用を要する場合を除いて、発注者は開発者に対して瑕疵の修補を請求することができます。
損害賠償の内容
システム開発の遅れなどによって納期を遅延した場合、ユーザは以下のような損害賠償を請求できます。
- ハードウェア、ソフトウェアの購入代金
- 第三者に支払った業務委託料
- 逸失利益
ただ、過去の判例によるとどこまで損害賠償を請求出来るか(もしくはされるか)は状況によって様々ですので、必要があれば弁護士に相談した方がいいでしょう。
契約の解除について
納期を遅延した場合、ユーザは債務不履行を理由として、契約を解除することができます。
この場合成果物が完成していませんので、受注側は報酬を請求できません。また、すでに報酬を受領している場合には返金する必要があります。
尚、納期前においては民法第641条で「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。」と定められており、損害賠償をすればいつでも契約解除できるとされています。
再委託
請負においては、完成すべき時期までに仕事が完成しさえすれば債務は履行されたことになることから、講演・演奏などや特約のある場合でない限り、自由に第三者を履行補助者や下請負人(履行代行者)として用いて仕事の完成にあたらせることができる。
Wikipediaより
請け負った仕事を再委託する事は全く問題ありません。
例外
国がシステム開発等を委託する場合には次のルールがあります。
契約に係る業務の全部を一括して第三者に再委託することが禁止されるとともに、契約の相手方が再委託を行う場合には、国は、あらかじめ再委託を行う合理的理由、再委託の相手方が再委託される業務を履行する能力等について審査し、承認を行うなどとされている。
つまり、業務の全てを再委託するのは禁止、一部を再委託する場合にも承認が必要という事です。
請負契約にかかる印紙税
請負契約書は、印紙税額一覧表の第2号文書「請負に関する契約書」に該当します。
金額によって税額が違いますので、国税庁のホームページで確認してみましょう。
国税庁HP 印紙税額一覧
偽装請負と判断されるケース
一人請負
請負作業場に、作業者が1人しかいない場合で当該作業者が管理責任者を兼任
している場合、実態的には発注者から管理責任者への注文が、発注者から請負労働者への指揮命令となることから、偽装請負と判断されることになります。
※ただし、管理責任者が巡回して適正な請負となっていればセーフ
偽装請負にならないケース
パーテーションが無い
厚生労働省の【労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド】によると、これはセーフです。
パーテーションで区切って電話も別に引いて、看板を出さないといけないという噂を良く耳にしますが間違いです。
※IT業界で働くなら必ず一度は目を通しておいてください。
準委任契約
次は準委任について説明していきます。
まず、「準」が付いてない委任契約が何かと言うと
当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる契約。
Wikipediaより
となっています。
具体的には、弁護士や医者、またはコンサルティングなどがこれにあたります。
ズバリ、準委任契約とは法律行為以外の委任契約の事です
※IT業界ではSES(システムエンジニアリングサポート)契約と呼ぶことも。
準委任の特徴
①瑕疵担保責任
請負契約と違い、瑕疵担保責任はありません。
②対価
成果物ではなく作業報告書を納品し、作業時間によって対価を得ます。
③善管注意義務がある
専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。
これに違反すると、損害賠償や契約解除などを受ける可能性があるので注意。
④再委託
個別契約書に記載する事で再委託は可能。
ただし、請負と同じく指示を受けてはいけない為、一人常駐は問題になる可能性が高い。(管理者が巡回し、また作業者が顧客から一切の指示を受けなければ解釈上はOK)
派遣契約
法律では次のように定められています。
「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」(法第2条)
簡単に言うと
派遣元に所属したまま、派遣先の指揮命令に従って仕事をすることですよ。
ただし、将来的に派遣先の社員にすると約束してあるものは除くよ。(紹介予定派遣の事ですね)
という契約です。
許認可について
平成27年9月30日に施行された派遣法の改正により、今まであった特定派遣と一般派遣が一本化されました。(経過措置がある為、完全に特定派遣がなくなるのは平成30年9月29日)
しかし先ほど準委任の項でも説明しましたが、労基に認められるレベルで正しく準委任を行うのは難しく、大口顧客との取引終了などがあると倒産の可能性までありますので注意が必要です。
二重派遣の禁止
派遣の免許があったとしても、一度派遣で受け入れた要員を別の企業へ派遣することは出来ません。
偽装請負はまだ行政指導などで済む場合もありますが、二重派遣は事業停止や許認可取り消し処分もあり得ます。
ただし、請負→再委託→再々委託→再々々委託→派遣などは二重派遣にはあたりません。
現場で働いているエンジニアが、全ての商流の契約形態を知る事は不可能ですが、現在大っぴらに二重派遣を行っているような企業はまずありませんので、心配をするなら二重派遣よりは偽装請負の方になるでしょう。
派遣先に労務管理の責任がある
請負、準委任は指示を受けてはいけませんが、派遣は指揮命令者の指示に従って仕事を行います。
36協定などの労務管理も派遣先の責任となる為、こういった管理工数の増加を嫌い、なるべく同一の所属会社から複数名の技術者を参画させ、準委任などへ契約を切り替えたいと考える企業もあります。
派遣の抵触日について
有期雇用(契約)の社員を同一の顧客(正しくは同じ課)に3年を超えて派遣させる事は出来ません。
逆に無期雇用(契約期間の定めがない社員)の者は26業種以外の業務でも期間に制限なく派遣させる事ができます。
出向(在籍出向・転籍出向)
最後に出向契約です。エンジニアさんなどで常駐の事を出向と言っている人がいますが誤りです。違いを覚えておきましょう。
そもそも出向とは
出向とは、命令を受けて別の企業で働く事を言いますが、出向について直接定められた法律はありません。
先に理解しておきたいのは、労働者供給事業の禁止というルールです。
簡単に言うと、派遣の免許を持っている人以外、労働者を供給して利益を得るのは一切禁止!という決まりです。
つまり、出向させた時に利益が出てしまうと労働者供給事業になるのでNGという事です。
IT業界に関わる者として出向について知っておくべきなのは、二重派遣や商流制限回避の為に出向させても、利益が出てたら罰せられるという事です。
在籍出向
所属会社に籍を残したまま、別の企業へ出向する事。
保険の加入や給与の支払いも所属会社から行われる。(給与は出向先から支払う事も可能)
IT業界では在籍出向はグレーという人が多いですが、利益が生じてなければ特に問題はありません。
例えば出向先から給与の名目で50万振り込まれたら、それをそのまま本人に支払っていればいい訳です。いけないのは本人に40万しか払わないで10万の利益を得たり、もしくは別途営業支援費やコンサルタント料などという名目でお金を受け取ったりしているとアウトです。
転籍出向
所属会社から籍が移る出向の事。
所属会社を退職して出向先に入社する事になるので、手続き上は転職と変わりません。
一応、転籍を行えば二重派遣や商流制限の問題はクリアになりますが、やはり利益を得てしまえば違法となってしまいます。
(例えば出向中に出向先企業から何かしらの名目で金銭を受け取ってしまえばアウトです。)
一つのプロジェクト限定で転籍させ、案件終了時に復職させるケースも稀にあります。
その際は転籍期間も退職金の計算に算入したり、有休も残しておくなどの取り決めをする場合が多いようです。
まとめ
最後にすごく簡易にそれぞれの契約形態をまとめておきます。
派遣
お客さんから指示を受けて作業をする。働いた時間分のお金がもらえる
請負
指示を受けたら罰則!誰がいつやろうが、成果物さえ渡せばお金がもらえる。ただ、成果物に問題があると直したり損害を賠償したりしないといけない。
準委任(SES)
指示を受けたら罰則!働いた時間分お金がもらえる。請負のような瑕疵責任はないけど、その道の専門家として普通出来るような事をやらないとアウト。再委託は契約書に書いておけばしてもいいけど、「あなただからお願いした」って場合はダメ。なぜなら有名人に講演を頼んだのに違う人が来て、再委託されました!って言われたらビックリするから。
出向
法律はないけど、出向先からお金もらって利益が出たらアウト!(給料ぴったりならセーフ)在籍出向と転籍出向がある。転籍は転職とほぼ同じ。
以上がIT業界にある契約形態の全てです。
請負、準委任(SES)、派遣の違いとルールを理解しておけばそれほど恐れる事はありません。
正しい知識があれば自信をもって仕事に取り組む事が出来ますので、ちょっと大変かもしれませんがきちんと勉強しておきましょう。